第64話 池袋駅ビル レストラン街編

ニックスを見送りに行く当日は正午に高田馬場駅の改札の内側で待ち合わせをしてあり、少し早めに家を出て待ち合わせ10分前には高田馬場駅に到着した。

暫くして、ニックスの荷物を分担して重そうに抱えながら運んでくる3人組が現われた。

ニックスの荷物は、とても一人分の荷物とは思えない量で、3人で分担してやっと一人分と言っても過言ではなかった。

4人揃ったところで、山手線に乗り込み池袋へ向かった。

池袋に着くと、まずニックスの乗る成田エクスプレスの切符を購入する事から始めた。とは言っても、僕は荷物の見張り番に過ぎず、英語の得意なヒデヒトさんにサポートは任せてしまった訳だが。

無事に成田エクスプレスの切符を購入すると、出発まで2時間弱時間があるようなので、ゆっくりお昼が食べられそうな池袋東武百貨店内にある「レストラン街スパイス」へ足を踏み入れた。

レストラン街スパイスは、総店舗数54店舗と日本最大のレストラン街で、この日本最大規模のレストラン街を目の当たりにするとニックスはたいそう驚いていた。もちろん、僕もこのレストラン街には初めて足を踏み入れたので、例外ではなく相当にびっくりしていたのは言うまでもないのだが。

あまりにも店舗数が多く、全部見て回っている時間もないので、「日本一の親子丼」という宣伝文句が印象的な「銀座 縁」というお店に入った。

僕は、当然「日本一の親子丼」を注文し、ニックスも僕に続いた。

どの辺が日本一なのかを体験してみたかった訳だが、確かにすごく美味しい訳だが、グルメでない僕には、日本一かどうかの判断する事はとても出来なかったのであった。

何はともあれ、ニックスも「日本一の親子丼」を食べて、結果的に満足していたようなので一件落着と言ったところだ。

お腹も満足したところで次行こうかという事になり、会計で自分の分の料金を払おうとしたところ、ヒデヒトさんに「いいのいいの」と強力に僕の分まで払ってもらってしまった。

奢って貰えたから優しい人だなんて一概には言えるはずがないが、ヒデヒトさんもアツコさんも、部外者の僕でさえ、友人として一貫して暖かく迎え入れてくれていた。

そんな出会って間もないだなんて微塵も感じさせない4人組は、パルコ内の不二家のレストランに入った。

途中、アツコサンがいつの間にかどこかへ消えてしまったので、不二家のレストランの一角に男3人という異様な光景となってしまった訳だが、今さっき昼飯を食べたばかりな僕等男3人組は、周りの事など気にせずに、まるで女の子グループのように甘いデザートを注文する事になった。

個人的に、僕は日本に帰ってきてから和菓子の甘さに目がなくて、この時もとても全部食べ切れないと思われたが、特大のあんみつを注文してしまったのだが、思いの外おいしくて、あっという間に平らげてしまった。

アメリカ旅行してみて、漠然としていながらも日本の良さを再確認した事はいくつかあるのだが、これだけは難しい事なしにはっきり言える。和菓子はマジでうまい!!!

暫くしてアツコさんも戻ってきて、何をしていたのかと思いきや、どうやらニックスへのお土産を買いに行っていたようだ。

僕はこの時も当然お土産なんぞ用意しておらず、こういう事に全く気が利かなくて何故か怒られる事も多い訳だが、こういうところは捻くれていて、お土産をくれという人にはあげたくない。日ごろの感謝を示すなら、何かを買うというより、お金をかけずに心を込めて何かを作る事をしてあげたいのだ。

プラダのバッグを買うだとか、高級車をプレゼントしてあげるだとか、とにかくお金を貢いであげるだとか、そこに気持ちがなければ、その時の感情は長続きせず、せっかく貰った高級バッグでさえすぐに思い入れがなくなって捨ててしまう事になるかもしれない。

僕はこんな人間の温度の感じられないやり取りはしたくないし、してもらっても素直に嬉しいと思えない。

僕は、近いうちにニックスに会いにシンガポールへ出かけるだろう。

旅行というものは、お金はかかる癖に物理的にはほとんど何も残らないものなのだが、物理的には何も残せなかったとしても、思い出としてニックスの心に一生宿り続ける事となり、それがニックスへの一番のお土産になるのだと思うから。

アツコさんも揃ったという事で、ヒデヒトさんが予め注文していた特大パフェを差し出したところ、アツコさんは心底うんざりしているようだった。それが僕等の狙いだった訳だが。

ニックスとはもう何日間も一緒にいる訳だが、彼の話は尽きる事を知らなかった。

日本旅行中の京都の金閣寺を訪れた時の体験談から、お得意のマーケティングの話などいろいろ盛り上がった訳だが、特にシンガポールの結婚適齢期の話はとても興味深かった。

ニックスはこの時32歳で、焦って結婚を考える歳ではまだないと語っていた。

実際、シンガポールの結婚適齢期は日本よりずっと高く、30代中盤だと考えられており、実際の結婚率も先進国特有の低さらしい。

 日本以上に、シンガポールは学歴志向の風潮が強いため、女性も男性と同様に一生懸命勉強し、大きな会社に就職して同じ立場で働くのだそうだ。

 日本も多かれ少なかれ同じような傾向があり、同じように結婚率が低下しているという事は良く納得出来た。

それはさておき、シンガポールの男性は結婚すると、新婦の為に結婚式の費用から何から何まで面倒を見るそうで、ニックスがその説明の中で「エブリシング(すべて)」を強調して話したのだが、すかさず、アツコさんがヒデヒトさんに向かって、「エブリシング、エッブリシング、エッッブリシング・・・」と繰り返した。

ヒデヒトさんは思わずたじたじになってしまったのは言うまでもないが、この見事なコントを見て、ニックスはいつまでも笑いが止まらなかった程おかしかったようだ。

僕も思わずつられて爆笑してしまったのも言うまでもないが、この何でもないような体験で、シンガポール人と日本人の笑いのツボが確かにあるという事が良く分かったのだった。

最後に、僕は「日本で一番良かった場所は?」という質問をニックスに投げてみた。すると、彼は僕と行った「湘南平」だと言ってくれた。

ニックスの目からは、横浜でも箱根でもなく、あの日本を代表する名所の金閣寺でもなく、湘南平だったのだ!

僕はその事がただ嬉しくてしょうがなかった。

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