第59話 湘南平編

11月23日(水)勤労感謝の日。

僕等は8時頃目覚め、のんびりと身支度をして、9時前には母屋に行き、うちの母親に作ってもらった朝飯を一緒に食べた。

うちの母親の手料理だが、ニックスに少しでも日本の「おふくろの味」を経験して欲しかった。

だが、シンガポールでの朝飯は日本ほどヘビーな内容ではないらしく、ここでも文化の違いに驚いていた。

シンガポールでは、朝飯にはまず米類は出てこないらしく、もっと軽い麺類などが主流なのだそうだ。

朝飯を食べ終わると、うちの家族の車を借りて、まず、平塚の観光地の一つの湘南平に向かった。

湘南平は、標高200メートル足らずの小高い丘陵で、周囲に高い山も無く、東に江ノ島、三浦半島、房総半島、南に大島、伊豆半島など相模湾を一望し、西には箱根、富士山、北に大山、丹沢山塊、さらには遠く新宿副都心の高層ビルまでが見渡す事が出来る。

頂上部の展望台は、テレビ塔下部の金網越しにみるものと、レストランやトイレも備えた眺望抜群の立派な展望台の二つがある。

夜景がきれいな事もあり、元々夜のデートスポットとして有名だったのだが、いつの頃からか、「恋する二人の名前を書いた南京錠をここにかけると、一生別れない」という噂が若者の間に広まり、テレビ塔に南京錠をかけに来るカップルが絶えなくなり、夕暮れ時ともなればその南京錠が虫の大群にも見えて不気味とさえ感じられるようになってしまった。

湘南平の夜景も好きだが、僕は気持ちよく晴れた午前中に一人でぶらっと来るのが好きだ。

澄んだ空気を吸いながら、頭を空っぽにして展望台から見渡せる自然に満たされた平塚の風景を見ていると、ちっちゃな事にくよくよしていた自分が過去の自分だったと思えるようになって、不思議と新しい自分に生まれ変われた気になれるのだ。

案の定、ニックスも僕と同じ感覚を味わってくれていたようで、その表情は幸せに満ちていた。

ニックスは言った。

「こんな素晴らしいところが、日本でそれほど有名な観光地ではないという事が信じられない!外国人ツアーリストがここに来たら間違いなく満足するよ!宣伝方法を工夫すれば間違いなく需要は見込める!」

そんな場所が僕の家から歩いて行ける所にあるのだ。

僕はこの平塚の豊かで飾らない自然に育まれて生きてきた。

無理して背伸びなどせずに自分らしく自然体で生きるという事は、この土地に教わった事なのかもしれない。

僕は、人に進んで紹介したいと思える、愛して止まないホームタウンを持てて本当に幸せだと心から思える。

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